この山下猛造には実在のモデルがいて、名前を山本猛夫さんといいます。同氏がつくった会社はいまも健在。「山善」という会社ですが、東証一部上場企業になっています。
もともと『どてらい男』はテレビドラマでした。これがどてらいヒットとなり、高視聴率を取っていたことから映画化が企画されたのだと思います。
さて、この映画を昨年、スクリーンで観る機会がありました。会場は「シネ・ヌーヴォ」。大阪市西区にあるミニシアターです。「大阪」をテーマにした映画の特集を組んでおり、そのプログラムの一つとして『どてらい男』があったのでした。
映画の出来としては「………」。西郷輝彦の演技が過剰で、いつも怒鳴りながら喋っているという印象しか残っていません。ただ、スクリーンに映し出される昭和の風景は、どこか郷愁をそそりました。
同じく7月には、いま観ても充分に楽しめるタイトルが公開されています。佐藤純彌監督『新幹線大爆破』。
東京から博多に向かって走る新幹線車内に爆弾が仕掛けられ、時速80キロ以下になったら自動的に爆発する……という状況下で繰り広げられるサスペンス。その爆弾を取り外す方法を知りたければ、500万ドルを払えというのが犯人グループの要求で、その犯人の一人を高倉健が演じています。
パニックになる新幹線車内のドラマ、犯人側の悲しい事情、警察と国鉄(当時は国営でした)の関係者たちの葛藤がバランス良く織り込まれ、飽きさせない展開になっています。2時間半という“尺”ですが、少しも退屈しない。キアヌ・リーヴスとサンドラ・ブロックが共演したヤン・デ・ボン監督『スピード』はこの作品をヒントにしていると聞いたことがあります。
『新幹線大爆破』が封切られたのは7月ですが、その2か月後には『動脈列島』という作品が公開されています。監督は増村保造。私は観ていないのですが、こちらも新幹線に爆弾を仕掛けるお話とのことです。75年は新幹線が狙われるような社会的背景でもあったのでしょうか?
9月に公開されたのが高林陽一監督『本陣殺人事件』。原作は横溝正史で、かの金田一耕助がデビューする作品です。
金田一耕助(あるいは横溝正史)の大ブームは角川映画の『犬神家の一族』から始まるのですが、それは翌年まで待たなければなりません。当然、金田一耕助を演じたのも石坂浩二ではなく、こちらの作品では中尾彬。いまの中尾彬からすると、ちょっと意外な感もありますね。
意外な金田一耕助といえば、1977年に公開された野村芳太郎監督『八つ墓村』。こちらでは渥美清が金田一さんになっています。75年は中尾彬、76年(以降も)は石坂浩二、77年は渥美清……と、70年代後半における金田一耕助を巡る状況はなかなか趣があります。
11月には黒木和雄監督『祭りの準備』が公開されています。この作品はずっと後になって、名画座におりてきたときに観た記憶があります。確かいまはなき「高槻第一劇場」だったような。同時上映が原田芳雄&松田優作共演の『竜馬暗殺』だったのは確かだったと思います。監督がいっしょだから、きっとそういう特集だったのでしょう。
この『祭りの準備』には竹下景子が出ていて、胸もあらわな濡れ場を演じます。ストーリーはほとんど覚えていないのですが、そういうことは記憶に残ってしまうものなんですね。
さて、そんなこんなの邦画作品が公開された1975年ですが、12月になると超弩級のヒット作となる洋画タイトルが封切られます。スティーヴン・スピルバーグ監督『ジョーズ』。
大阪では「梅田グランド劇場」で公開されたと記憶しています。地下にある映画館で、一階は「うめだ花月」でした。
私はまだ一人で映画館に行けなかったので、梅田グランド劇場には父に連れられて行きました。しかし、なかに入ることは(つまり『ジョーズ』を観ることは)なかった。というのも、地上にまであふれるほどのどてらい行列ができていて、何時間も待たなければならなかったからです。それはちょっと勘弁願いたい、と父も子も思ったのでした。12月で寒いし。
私が『ジョーズ』を見たのは、それから10年以上たってのことでした。残念なことにスクリーンで観る機会は得られず、ビデオで。
この『ジョーズ』は当初、ディック・リチャーズという別の監督が撮ることに決まっていたそうです。スピルバーグが『ジョーズ』の原作のゲラ刷りをたまたま目にして気に入り、自分に監督をさせてくれと映画会社に働きかけたことでディック・リチャーズは外されてしまった、と。結果論的に見ると、可哀想ですね。
いま、ディック・リチャーズ氏が何をしているのか? 多くの人がしらないだろうし、興味もないでしょう。私もまた然りです。




